EC利用者にとって、配送の速さは購買行動に影響する重要な要素です。デジタルマーケティング支援を行うNEXER(ネクサー)とITソリューションを提供するバリューテクノロジーによる共同調査では、利用者の39.4%が発送までに時間がかかることを理由に購入をやめた経験があり、そのうち50.2%が他のECサイトで商品を購入しています。
配送に関する顧客の期待に応えるには、注文ごとに適切なフルフィルメント拠点を選び、効率的に商品を届ける仕組みが重要です。
この記事では、分散型注文管理(DOM)の仕組みや、ビジネスにおいて重要な理由、そしてShopify(ショッピファイ)を活用した事例について解説します。

分散型注文管理とは
分散型注文管理(DOM:Distributed Order Management)とは、店舗、倉庫、フルフィルメントパートナーなど複数の拠点に在庫を分散して保有し、どの拠点から注文の商品を発送するのが最適か判断し処理するシステムです。在庫を一元的に管理することで、コストを抑えながら注文を効率的に処理します。
フルフィルメントを担う拠点には、以下があります。
- 小売店舗:店舗からの商品発送に利用する実店舗
- 配送センター:大量の商品在庫を取り扱う各地域の拠点
- フルフィルメントサービス:第三者が運営する倉庫(3PL)
- サプライヤー:消費者に商品を直接発送する拠点
商品情報管理のクラウドサービスを提供するContentserv(コンテントサーブ)の調査によると、57.5%の企業が「実店舗+EC」の2チャネルで販売しています。さらに、45%以上の企業が1年以内に新たな販売チャネルの追加を予定しています。販売チャネルが増えるにつれて、各チャネルや店舗間で在庫情報を連携する必要が生じ、在庫管理も複雑になります。

分散型注文管理が重要な理由
カゴ落ちを防ぐ
EC物流代行業者のディーエムソリューションズ(ウルロジ)の調査では、54.5%が、購入手続きの最終画面で想定外の送料や配達日が表示されたことで購入をやめた経験があると回答しています。具体的な理由は、「送料が高かった/有料だった」が49.7%、「お届け日が遅かった」が36.9%を占めることからも、分散型注文管理はカゴ落ちの防止に重要であることが伺えます。
適切な配送予定を提示できる
分散型注文管理は、注文をどの拠点から発送するか、また商品をすべてまとめて発送できるか判断します。この仕組みにより、顧客のチェックアウト時に実際の配送状況に合わせた配送予定日を表示できます。
ウルロジによる調査では、75.6%のEC利用者が、翌日配送に対応していなくても購買意欲は下がらないと回答しており、配送の速さよりも送料を抑えることを重視する傾向も見られます。単に最速の配送方法を提示するのではなく、こういった顧客のニーズに合った選択肢を提供するためにも、分散型注文管理が重要です。
粗利益率を守る
フルフィルメントの仕組みが適切に整備されていないと、分割発送やお急ぎ配送の追加料金など余計なコストが発生します。こうした不要な費用が積み重なることで、注文1件あたりの利益が圧迫されますが、分散型注文管理を活用すれば、顧客の希望する配送期限を満たしながら、コストを最小限に抑えられるフルフィルメント方法を選択できます。これによって、粗利益率も維持できます。
返品リスクを抑える
日本通信販売協会の調査によると、2024年に通信販売を利用した人の29.9%に返品経験があります。
フルフィルメントのミスが発生すると返品につながる可能性が高まり、カスタマーサービスの負担も増加します。分散型注文管理を活用し、実際の配送状況に合わせた配送予定日を表示することで、返品の抑制や購入後の顧客体験の向上につなげられます。
複数拠点でのフルフィルメントを管理する
注文のルーティング機能を活用すれば、複数のフルフィルメント拠点にある在庫を管理できます。設定したルールに基づいて優先する拠点を決定したり、特定の市場(地域)内で注文を処理したり、複数拠点にある商品をできるだけまとめて発送したりできます。
Shopifyの管理画面の設定では、リアルタイムの在庫状況や拠点との距離などに基づいて、オンライン注文の割り当て先を決定できます。これにより、消費者の求める配送を実現しながら、各拠点の在庫を適切に配分できます。

分散型注文管理の仕組み
1. 現在の販売可能数を確認する
まず、分散型注文管理システムは、現在販売可能な商品を確認します。販売可能在庫(ATP)をもとに、現在の在庫、入荷待ち、引当済み在庫などを考慮して、今後の注文に対応できる在庫数を予測します。これにより、注文を処理して発送する段階で在庫を確保できる商品のみ、ストアでの注文を受け付けられます。
2. 商品在庫を確保する
商品が売れると、分散型注文管理システムはその商品の在庫を確保します。カートに入っている商品や発送対象の商品など、注文ごとに確保された在庫数を管理することで、同じ在庫が複数の顧客に重複して販売されるのを防ぎます。
3. 最適な配送拠点を選択する
Shopifyの注文ルーティングルールでは、配送先と同じ市場内にある拠点を優先し、顧客に最も近い拠点から発送します。発送元となるロケーションの選択では、運用ルールと配送スピードのバランスを考慮したうえで、効率的な拠点を決定します。
4. まとめ発送か分割発送か決定する
1件の注文をまとめて発送するか、複数回に分けて発送するかを判断します。注文ルーティングのルールでは、まず注文されたすべての商品を揃えられる拠点を優先し、分割発送を最小限に抑えます。1つの拠点ですべての商品を揃えられない場合は、荷物の数が最も少なくなる組み合わせをシステムが決定します。
5. 想定外の事態への対応
分散型注文管理システムは、当初の計画どおりに注文を処理できない場合にも対応します。たとえば、配送業者による配送受付の締切が繁忙期の12月19日に設定されている場合、当初の拠点からの発送ではこの配送予定日に間に合わないと判断されると、別の拠点へ注文を振り替えます。
6. 返品商品の行き先を決める
配送後、必要に応じて返品された商品をどのように処理するかを判断します。小売事業者が商品を検品して返金した後、分散型注文管理システムが再入庫するか、追加の検査を行うかを決めます。

商品を3つ注文した場合の分散型注文管理の処理例
顧客がオンラインで商品を注文したと仮定し、分散型注文管理の流れを見てみましょう。顧客からの注文内容と在庫状況は以下のとおりです。
- 注文内容:ジャケット、Tシャツ、パンツ各1点
- 実店舗の在庫:ジャケットおよびパンツ(パンツの一部は引当済み在庫)
- 倉庫の在庫:ジャケットおよびTシャツ
分散型注文管理システムは、まず各商品の販売可能在庫を確認します。実店舗にはジャケットとパンツがあり、引当済み在庫を除くと、この注文用に確保できるパンツが1点残っています。倉庫にはジャケットとTシャツがありますが、パンツはありません。
3商品すべてを1つの拠点から発送できないため、分散型注文管理システムは、Tシャツは倉庫から、ジャケットとパンツは実店舗から発送するのが最も効率がよい発送方法として判断します。また、ほかの注文にパンツが割り当てられないよう、最後の1点をすぐに引当済みとして処理します。最終的に2件に分けて発送し、顧客にはそれぞれ異なる2件の追跡番号を提供します。

分散型注文管理が適切に機能するために必要な情報
- リアルタイムの在庫情報:拠点ごとの在庫状況を管理し、安全在庫を設定することで、店舗や配送センターでの過剰販売を防ぎます。
- 各拠点の対応能力:倉庫によって対応できる業務は異なります。Shopifyであればロケーションメタフィールドを活用して、処理能力やフルフィルメント条件に応じた拠点を優先できます。
- 配送業者のサービス情報:注文を適切な拠点に割り当てるには、配送業者の最新情報が必要です。たとえば、ホリデーシーズンなど繁忙期の配送受付期限は業者やサービスによって異なるため、配送予定日に間に合わせるには各サービスの受付締切を考慮する必要があります。
- 出荷や配送にかかるコスト情報:最も近い拠点が、必ずしも最もコスト効率のよい選択肢とは限りません。フルフィルメント費用、配送エリア、拠点間の在庫移動費用などを考慮して、優先する拠点を決めるルールを設定します。
- 配送所要日数や出荷条件:配送業者とのサービスレベル合意(SLA)や配送予定日計算のロジックを活用し、設定した配送目標を達成できるようにします。
分散型注文管理(DOM)、OMS、一般的な注文のルーティングの違い
ベンダーによっては、分散型注文管理(DOM)、受発注管理システム(OMS)、一般的な注文のルーティングを明確に区別せず、まとめて「注文管理」として表現する場合がありますが、それぞれ担う役割と対応できる範囲は異なります。
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主な役割 |
対応できる範囲 |
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OMS |
注文全体の管理 |
注文受付、決済、返品、顧客対応など |
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DOM |
フルフィルメントの最適化 |
在庫や拠点、配送条件などを考慮した高度な注文の振り分け |
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一般的な注文のルーティング |
拠点への注文の割り当て |
あらかじめ設定したルールに基づく注文の振り分け |
OMSとDOMの違い
OMSとDOMの違いは、OMSが注文全体を管理するのに対し、DOMはフルフィルメントに関する判断を担うという点にあります。
OMSは、注文の受け付けから完了まで、注文に関わる一連のプロセスを一元的に管理します。決済処理、顧客とのコミュニケーション、返品対応などを管理し、すべての取引を記録する役割を担います。一方、DOMは、OMSの中でもフルフィルメントに関する判断を行う機能です。各拠点の状況をリアルタイムで分析し、注文をどの拠点から発送するのが最適か判断します。
一般的な注文のルーティングとDOMの違い
一般的な注文のルーティングとDOMの違いは、一般的な注文のルーティングが設定したルールに基づいて注文を振り分けるのに対し、DOMは在庫状況や配送条件などを考慮して、より高度な判断を行う点にあります。
一般的な注文のルーティングでは、最寄りの拠点からの発送や分割発送の削減など、設定したルールに基づいて注文を各拠点に割り当てます。複数拠点を使ったフルフィルメントにも対応できます。
一方、DOMでは、販売可能在庫(ATP)や拠点ごとの在庫状況などを考慮した、より高度な注文の振り分けが可能です。Shopifyでも、一般的な注文ルーティングに対応していますが、より高度なオーケストレーション機能を利用するには、Shopify Plusで利用できるOrder Routing Location Rule Function API(英語)が必要です。

Shopifyを活用した分散型注文管理型フルフィルメント
Shopifyは、分散注文管理に必要な機能の多くを標準機能とAPI拡張で提供しており、倉庫や実店舗にまたがる在庫、注文、フルフィルメントを一元管理できます。以下のような標準機能やツールを活用することで、別途大規模なシステムを導入せずに注文を管理できるようになります。
- 複数拠点の在庫状況を可視化:Shopifyの管理画面で倉庫、実店舗、3PL(物流業者)の在庫をまとめて確認できます。
- 注文ルーティング:購入者が指定した配送先と配送拠点の距離、在庫状況、分割発送に関するルールに基づいて、注文を自動的に拠点へ割り当てます。
- 店舗でのフルフィルメント:Shopify POSを利用して、実店舗で注文の商品をピッキング、梱包、発送できます。
- オンラインで購入して店舗で受け取る(BOPIS):店舗受取を設定できます。近隣の店舗に在庫がない場合は、店舗間の在庫移動を行います。
- 自動化:Shopify Flow(フロー:現在は英語のみ対応)を利用して、注文へのタグ付け、通知、例外処理などを自動化できます。
- APIとアプリ:フルフィルメント注文APIやWebhookを利用して、フルフィルメント処理などを拡張できます。
登録する拠点数が多かったり配送条件が複雑だったりするなど、標準機能や拡張で要件を満たせない場合は、Shopify Plusや専用の分散型注文管理システムが適しています。
日本の導入事例では、100円ショップDAISO(ダイソー)がShopify Plusと独自の在庫管理システムを組み合わせ、複数の配送センターから配送先に近い拠点の在庫を割り当てて発送する分散型注文管理を実現しています。これによって、消費者へ商品をより早く届けることができます。
また、海外ではジュエリーブランドのMejuri(メジュリ/英語)がShopify上でフルフィルメントを一元化し、英国向けのリードタイムを9日から2日に短縮しました。Shopifyの標準機能で注文管理と注文ルーティングの要件の80%をカバーし、残りをAPI連携で補完しています。
まとめ
分散型注文管理(DOM)は、複数の拠点にある在庫の情報や配送条件をもとに、注文ごとに適切な発送拠点を選択するシステムです。適切な拠点から商品を発送することで、配送コストや遅延を抑えながら、顧客の期待に応えられる配送体験を提供できます。
複数の店舗や倉庫の在庫を効率的に活用して販売機会を広げ、事業規模の拡大につなげましょう。Shopifyでは、在庫管理や注文ルーティングなどの標準機能に加え、APIやShopify Plusの拡張機能を活用できるため、事業規模やフルフィルメント要件に応じた分散型注文管理の仕組みを構築できます。
分散型注文管理に関するよくある質問
OMSとDOMの違いは?
OMSとDOMの違いは、その役割にあります。受発注管理システム(OMS)は、書類処理、決済、注文履歴など、注文管理を担います。一方、分散型注文管理(DOM)は、注文をどの倉庫や店舗から発送するかを判断し、フルフィルメントを最適化します。
DOMとは?
DOMとは、Distributed Order Managementの略で、分散型注文管理のことです。分散型発注管理と呼ばれることもあります。
Shopifyは分散型注文管理に対応している?
はい。Shopifyには、一般的な注文のルーティング機能が標準で備わっているほか、Shopify Plus向けに提供されている注文ルーティングの拡張機能で独自ルールを実装できます。在庫状況や顧客との距離などに基づいて、注文の発送元となる拠点を自動的に選択できるだけでなく、より複雑な要件にも対応できる場合があります。
分散型注文管理はどのような場合に導入すべき?
複数の拠点でフルフィルメントを行う場合や、複数のECプラットフォームを利用している場合は、分散型注文管理の導入を検討する価値があります。配送遅延、在庫の過剰販売、分割発送の増加などの課題がある場合にも有効です。
分散型注文管理による返品処理とは?
分散型注文管理は、返品商品をどの拠点で処理するかを自動的に判断します。返品された商品を再販売するために近隣の店舗へ戻すのか、検品のために倉庫へ送るのかを判断し、商品をできるだけ早く在庫に戻せるようにします。




